Material Design by ab initio Methods

平山研究室

研究対象

私たちの研究テーマは、理論物理による新奇物質の設計とその物性の探求です。

現実的な材料に対する高精度な数値計算方法である第一原理計算を用いて物性を検討しています。特に、電子構造の幾何学特性や電子相関効果に焦点を当て、非自明な物性を示す材料を探求しています。また、超伝導状態におけるマヨラナ粒子の実現なども検討しています。さらに、電子相関効果を高精度に扱うための第一原理的方法を開発し、磁性体や強相関電子系を含む広範な材料設計を研究しています。対象としては、電子化物などの化学・材料科学分野の物質も含め検討し、分野横断的な研究を目指します。

トポロジカル系

- トポロジカル電子相

- トポロジカル超伝導相

- トポロジカル材料とその応用

第一原理計算

- GW近似

- 第一原理有効模型

- 低エネルギーソルバー

強相関電子系

- 磁性体

- 超伝導体

- ヘテロ構造

材料科学

- 共有結合 & 電子化物

- 分子結晶

- 応用物理学


1. 三方晶TeにおけるWeyl点

Research 1

我々は三方晶Teが圧力下で空間反転対称性の破れたWeyl半金属になることを理論的に発見しました[1]。この予想は実際に、ドハース効果[2]およびスピン分解光電子分光[3]の実験によって実証されました。我々はこの他にも、対称性の観点から複数のWeyl半金属を発見しています[4]。

[1] M. Hirayama, S. Ishibashi, R. Okugawa, S. Murakami, and T. Miayake, Weyl Node and Spin Texture in Trigonal Tellurium and Selenium, Phys. Rev. Lett. 114, 206401 (2015).

[2] T. Ideue, M. Hirayama, H. Taiko, T. Takahashi, M. Murase, T. Miyake, S. Murakami, T. Sasagawa, and Y. Iwasa, Pressure-induced topological phase transition in noncentrosymmetric elemental Tellurium, Proc Natl Acad Sci USA 1905524116 (2019).

[3] M. Sakano, M. Hirayama, T. Takahashi, S. Akebi, M. Nakayama, K. Kuroda, K. Taguchi, T. Yoshikawa, K. Miyamoto, T. Okuda, K. Ono, H. Kumigashira, T. Ideue, Y. Iwasa, N. Mitsuishi, K. Ishizaka, S. Shin, T. Miyake, S. Murakami, T. Sasagawa, Takeshi Kondo, Radial spin texture in elemental tellurium with chiral crystal structure, Phys. Rev. Lett. 124, 136404 (2020). (Editors' Suggestion)

[4] S. Murakami, M.Hirayama, R. Okugawa, and T. Miayake, Emergence of topological semimetals in gap closing in semiconductors without inversion symmetry, Sci. Adv. 3, 1602680 (2017).


2. fcc単元素固体におけるトポロジカル線ノード

我々はアルカリ元素の面心立方構造Ca,Sr,Ybがノーダルライン半金属であることを理論的に発見しました[1]。本研究ではさらに類似物質のAgに注目し、Bi/Ag(111)という界面系における100meVに及ぶ巨大なスピン分裂の起源が、Agのノーダルライン由来のトポロジカル表面状態とBi pzの共有結合にあることを明らかにました。

[1] M. Hirayama, R. Okugawa, T. Miayake, and S. Murakami, Topological Dirac nodal lines and surface charges in fcc alkaline earth metals, Nat. Commun. 8, 14022 (2017).

Research 2

3. トポロジカル物質としての電子化物

Research 3

電子化物とは、結晶中の空隙に電子e-が入り込み、アニオンとして構造の安定化を担っている物質群です。我々は、電子化物が小さな仕事関数を持つ点に着目し、電子化物が一般にトポロジカル物質になりやすい(バンド反転が生じやすい)ことを提案しました[1]。トポロジカルな電子化物の候補物質Sc2C (図(a))では層と層の間の空隙に電子が入り込んだ(Sc2C)+2e-の状態で系が安定し、図(b)のようにバンド絶縁性を示します。このとき、電子雲は単位胞の境界すなわち劈開面上を中心に存在しており、分極は最大かつ量子化された値を持ちます(Zak位相=π)。バルクの分極による電位の上昇を抑えるためSc2C表面では、幾何学的に保護された宙に浮かんだ空隙起源のトポロジカル金属状態が出現します(図(c)(d))。この原子に局在していない電子雲は小さな仕事関数を持つため、Sc2Cを基板として用いることで、表面載せた物質に対して高密度の電子ドーピングを行うことが可能になります(幾何学的キャリアドーピング)。例えばMoS2に対してはMo1サイトあたり1電子のドープが可能となります(図(e))。我々はさらに、トポロジカル電子化物の分類を行い、代表的なDirac半金属であるNa3Biがトポロジカル電子化物であることを見出しました[2]。我々は、ありふれたアパタイトを電子化物することで、高次トポロジカル絶縁相になることも提案しています[2]。

[1] M. Hirayama, S. Matsuishi, H. Hosono, and S. Murakami, Electrides as a New Platform of Topological Materials, Phys. Rev. X 8, 031067 (2018).

[2] M. Hirayama, S. Matsuishi, H. Hosono, and S. Murakami, Higher-Order Topological Crystalline Insulating Phase and Quantized Hinge Charge in Topological Electride Apatite, Phys. Rev. Research 2, 043131 (2020).


4. 空隙電子によるトポロジカル分子結晶

我々はK4Ba2[SnBi4]などの複数の相対論的なトポロジカル分子性結晶を見出すことに成功しました[1]。HOMOやLUMOのバンドは分子軌道を反映して弱い波数依存性を持ちますが、空隙軌道のバンドは3次元的な強い波数依存性を持ち、LUMOと混成しつつHOMOとバンド反転を起こします。K4Ba2[SnBi4]は、電子化物、相対論的トポロジカル物質、分子性結晶の3つの性質を兼ね備えており、Bi2Te3に匹敵する高い熱電性能など複合的な性質を持ちます。

[1] T. Yu, R. Arita, and M. Hirayama, Interstitial-Electron-Induced Topological Molecular Crystals, Adv. Phys. Res. 2200041 (2022).

Research 4

5. 二層Bi2Te3におけるモアレ電子状態

Research 5

我々は、代表的な熱伝材料・トポロジカル物質であるBi2Te3とその周辺物質(Sb2Te3,Bi2Se3)を用いて、新たなモアレの電子状態構築を検討しました。トポロジカル相転移近傍の薄膜を用いることで、積層パターンの違いによる相変化を起こし、トポロジカルエッジ状態が基本単位の結晶を構築しました。さらに、そのモアレバンドでバンド反転を起こすことで、バルクのトポロジカルエッジ状態起源のモアレのトポロジカルエッジ状態が実現できます。

[1] I. Tateishi and M. Hirayama, Quantum spin Hall effect from multi-scale band inversion in twisted bilayer Bi2(Te1−xSex)3, Phys. Rev. Research 4, 043045 (2022).

[2] I. Tateishi and M. Hirayama, Topological invariant and domain connectivity in moiré materials, Phys. Rev. B 107, 125308 (2023).


6. 強相関電子系における第一原理手法

我々は、密度汎関数法が苦手とする強相関電子系物質に対して、低エネルギー自由度の有効模型を第一原理的に導出し、模型を高精度な数値計算手法で解く手法(第一原理ダウンフォールディング法)の開発を行ってきました[1-5]。我々の開発した手法によって、銅酸化物超伝導体のモットギャップと磁気モーメントを第一原理的に再現することに初めて成功しています[4]。

[1] M. Hirayama, T. Miyake, and M. Imada, Derivation of static low-energy effective models by ab inito downfolding method without double counting of Coulomb correlations, Application to SrVO3, FeSe and FeTe: Phys. Rev. B 87, 195144 (2013).

[2] M. Hirayama, T. Miyake, M. Imada, and S. Biermann, Low-energy effective Hamiltonians for correlated electron systems beyond density functional theory, Phys. Rev. B 96, 075102 (2017).

[3] M. Hirayama, Y. Yamaji, T. Misawa, and M. Imada, Ab initio effective Hamiltonians for cuprate superconductors, Phys. Rev. B 98, 134501 (2018).

[4] M. Hirayama, T. Misawa, T. Ohgoe, Y. Yamaji, and M. Imada, Effective Hamiltonian for cuprate superconductors derived from multiscale ab initio scheme with level renormalization, Phys. Rev. B 99, 245155 (2019).

[5] J.-B. Morée, M. Hirayama, M. T. Schmid, Y. Yamaji, and M. Imada, Ab initio low-energy effective Hamiltonians for high-temperature superconducting cuprates Bi2Sr2CuO6, Bi2Sr2CaCu2O8 and CaCuO2, Phys. Rev. B 106, 235150 (2022).

Research 6

7. トポロジカル系における物質設計

Research 7

我々は絶縁体FeSiにおいて、まるでレアメタルのような強い相対論効果を持つ表面金属状態を発見しています[1,2]。FeSiは非磁性絶縁体であるが、そのギャップはFeとSiの共有結合に由来し、表面では巨大な分極(Zak位相)起源の金属状態が出現します。この電子状態は、軽元素にも関わらず巨大なRashba分裂を示し、室温近傍で強磁性に転移することが見出されています。また、我々は他にも材料研究として、Pt3Snがトポロジカルな触媒であることも見出しています[3]。

[1] Y. Ohtsuka*, N. Kanazawa*, M. Hirayama*, A. Matsui, T. Nomoto, R. Arita, T. Nakajima, T. Hanashima, V. Ukleev, H. Aoki, M. Mogi, K. Fujiwara, A. Tsukazaki, M. Ichikawa, M. Kawasaki, Y. Tokura, Emergence of spin-orbit coupled ferromagnetic surface state derived from Zak phase in a nonmagnetic insulator FeSi, Sci. Adv. 7 eabj0498 (2021).

[2] T. Hori, N. Kanazawa, M. Hirayama, K. Fujiwara, A. Tsukazaki, M. Ichikawa, M. Kawasaki, and Y. Tokura, A Noble-Metal-Free Spintronic System with Proximity-Enhanced Ferromagnetic Topological Surface State of FeSi above Room Temperature, Adv. Mater. 2206801 (2022).

[3] M.-C. Jiang*, G.-Y. Guo, M. Hirayama*, T. Yu, T. Nomoto, and R. Arita, Efficient hydrogen evolution reaction due to topological polarization, Phys. Rev. B 106, 165120 (2022).


8. 強相関電子系における物質設計

我々は、自身が開発したダウンフォールディング法を物質設計に組み合わせ、NiおよびPdベースの高温超伝導体候補物質の理論的予言を行っています[1,2]。予言したNi酸化物の1つは、実際に実験での合成の報告がなされており、キャリアドープによる高温超伝導発現が期待されます。

[1] Y. Nomura, M. Hirayama, T. Tadano, Y. Yoshimoto, K. Nakamura, and R Arita, Formation of 2D single-component correlated electron system and band engineering in the nickelate superconductor NdNiO2, Phys. Rev. B 100, 205138 (2019).

[2] M. Hirayama, T. Tadano, Y. Nomura, and R. Arita, Materials design of dynamically stable d9 layered nickelates, Phys. Rev. B 101, 075107 (2020).

Research 8