RESEARCH

物質と光の相互作用は自然科学のなかで常に主要な役割を果たしており、今もその概念は進化を続けています。 当研究室では最近の物質科学によって発見された物質のユニークな性質に注目し、テラヘルツ帯から紫外までの 最先端光学測定を行うことで、新奇な光機能性の開拓や物質中のダイナミクスの理解を目指して研究を行っています。

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◆マルチフェロイックにおけるスピンダイナミクス
マルチフェロイクスは複数の秩序変数が存在している物質のことを指しますが、 最近では特に磁性と誘電性が存在する物質群を指します。このような系ではしばしば 磁性と誘電性が強く相関し、磁場によって誘電性を、電場によって磁性を制御する といった交差応答が実現できます。このマルチフェロイクスは将来の応用も含めて 様々な面から盛んに研究されていますが、その中でも我々はエレクトロマグノンと 呼ばれるこの物質特有のスピンダイナミクスの研究を行っています。エレクトロマグノン は、通常光の磁場成分で励起できるマグノン(スピンの集団運動)とは対照的に光の 電場成分で励起できるマグノンです。この新しいマグノンの基礎原理の解明から応用化 を目指した特性評価まで一貫して行っています。
◆エレクトロマグノンによる電気磁気光学効果
光は振動する電場成分と磁場成分を持っており、通常はそのうちの一方が光学応答に寄与 します。しかし一方で、マルチフェロイクスにおいては同時に両者が物質に作用する場合 があり、電気磁気光学効果と呼ばれる新奇な光学現象が発現することがあります。電気 磁気光学は光の進行方向に依存する光学応答であり、例えば光の伝搬方向で吸収係数が異 なりアイソレーターやマジックミラーに似た現象が実現できます。また、電気磁気光学効 果にはいくつか種類があり、位相や偏光など光の様々な自由度を自在に制御することがで きます。我々の研究室ではエレクトロマグノンで巨大な電気磁気光学効果が実現できるこ とを明らかにしてきました。現在もさらなる巨大化や微視的な起源の解明に力を注いでい ます。
◆高強度テラヘルツによる磁性・誘電性の制御
物質の磁気的性質は応用範囲が幅広く、特にメモリデバイスに応用されます。 こうした目的のため、磁性の超高速制御は重要な課題といえ、古くから磁性の 光制御は非常に大きな注目を集めてきました。エレクトロマグノンは通常の 磁気共鳴に比べはるかに強く光と相互作用するため、我々の研究室ではこれを 強励起することで、効率よく磁気構造を制御することを目指しています。 さらに、マルチフェロイクスは磁気と電気の性質が強く結びついているために、 磁気構造を制御することで同時に電気的性質までも制御することが可能である と考えています。
◆複合ドメインのイメージングとダイナミクスの解明
マルチフェロイクスでは複数の秩序変数が存在するため、そのドメイン構造も 複数の秩序変数を持つことが期待できます。こうした秩序変数の発現による対称性 の破れは、光を使うことで敏感に検知できるため、複合ドメイン構造の電気的・ 磁気的な性質を明快に解明することが可能です。特に複合ドメインは、トポロジー やダイナミクスの観点で新しい物性現象を生むことが期待できます。また、秩序が 安定化しない「揺らぎ」が支配する領域を、光学応答をツールとして研究すること も目指します。
◆トポロジカル伝導現象における電荷ダイナミクス
全ての伝導現象は伝導電子のダイナミクスによるものですが、光学測定を行うことで その情報を詳細に得ることが可能です。例えば、磁性体中でのホール効果はバンドの 交差点がしばしば重要な役割を果たすことが理論的に明らかになっていますが、これ はファラデー回転スペクトルにおいて共鳴構造として現れます。ここでは、量子ホー ル効果やトポロジカルホール効果といった特異な伝導現象の裏に潜む伝導電子のダイ ナミクスを明らかにすることを目指します。
◆非磁性物質におけるスピン偏極の光生成・光検出
スピントロニクス分野ではスピンの状態をいかに効率よく制御するかということが重要 な課題となっており、様々な新奇スピン生成方法が提案されています。我々は、スピン 生成を光照射により実現しさらに光検出することでこの問題に取り組んでいます。特に、 様々な物質相に着目することで高効率化を目指し、スピン流生成に本質的に重要な役割 を果たしている、スピンや電荷、格子の絡み合った複雑なダイナミクスを解明すること を目指しています。