研究活動

量子相制御

非相反輸送現象とバルク光起電力効果

空間反転対称性の破れた物質では、対称性の破れを反映した非線形応答の発現が一般的に期待さる。我々は、特に2次の非線形輸送現象に着目し、様々な空間反転対称性の破れた量子物質において、電流の整流現象である非相反輸送や光照射によって起電力が生じる現象であるバルク光起電力効果の研究を行っている。物質が固有に持つ整流特性の量子力学的起源を解明すると同時に、新しい非線形輸送現象の開拓を目指している。

T. Ideue, et al. Nature Physics, 13, 578-583 (2017).
Y.J. Zhang, et al. Nature, 570, 349-353 (2019).
Y. Itahashi et al. Science Advances, 6, eaay9120 (2020)

ファンデルワールスヘテロ界面

3次元の層状物質からスコッチテープ法等によって剥離された2次元物質は、任意の順番や積層角度で積層して界面を作製できる。そのようなファンデルワールスヘテロ界面では、モアレ構造や分極を持った準周期構造など、元の2次元結晶には無かった特徴的ナノ構造や対称性が発現し、界面物性に大きく影響を与える可能性がある。我々は、ファンデルワールスヘテロ界面におけるユニークな対称性に着目した、新奇量子物性や機能性の開拓に取り組んでいる。

M. Onga et al. Nano Letters, 20, 4625(2020).
T. Akamatsu et al. Science, 372, 68 (2021)

バレートロニクス

現代社会を支えるエレクトロニクスは、電荷の有無をスイッチのON/OFFに見立てて様々なものを制御している。そこに更に量子力学的自由度である“バレー”を付け加える試みとして、“バレートロニクス”が提唱されている。等価な複数の伝導帯の底(バレー)が幾何学的に区別可能である時発現するバレー自由度は、スピン軌道相互作用を介してスピン自由度と結合するために、これまでにない新奇な現象やデバイスの実現が期待されている。

R. Suzuki, M. Sakano et al., Nature Nanotechnology 9, 611 (2014)
Y. J. Zhang et al., Science 344, 725 (2014)
M. Onga et al., Nature Materials, 16, 1193 (2017)

電界誘起超伝導

半導体や絶縁体へキャリアをドーピングする方法は、前世紀の銅酸化物高温超伝導体発見以降物質開発の有力な指導原理になっている。我々はこれまでに外部電界を用いたキャリアドーピングに着目し、電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を用いた界面へのキャリアドーピングや層状物質へ電気化学的にイオンを挿入することによるドーピングの手法が、新規超伝導体の開拓に強力な手段となり得ることを実証してきた。また、これらの方法は、キャリア数の制御だけでなく、空間反転対称性の破れや系の次元性を制御できる手法でもある。我々は超伝導層の厚みや磁束状態、ギャップ構造などに関する詳細な性質を調べることで、電界誘起超伝導現象の詳細な性質や特異な物性の理解を目指している。

Y. Saito et al., Science 350, 409 (2015).
Y. Saito et al., Nature Physics 12, 114 (2016)
Y. Nakagawa et al. Science, 372, 6538, 190-195 (2021).